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床に就くや否や眠りに落ちてしまった僕が、なにやら人の動く気配を感じて目を覚ました。
夜半をとうに過ぎていた。
僕は真っ暗な座敷を見渡し、何事もないのを見て取ると、廊下に出た。
手水を使おうとふと庭に目をやると、離れに灯りが点っている。
鳴人はまだ起きているのか、あるいは眠れないのかと目を凝らしてみると、どうにも何事か人目を忍んで忙しなく動いているような気配があり、僕を起したのは、ああ、この気配だったかと合点がいった。
何をしているかなど、無論想像などつかない。
僕はこの時、他意なく気に掛かって離れに向かった。
「鳴人、起きているのかい」
呼びかけはしたものの、僕は遠慮なく離れに入っていった。
短い廊下の手前に客間があり奥手に食堂がある。
明かりが点いていたのは、奥の方だった。
「鳴人、眠れないのかい」
返事は返ってこなかった。
僕は躊躇いなく奥に行き、食堂の戸口に立って顔だけ差し入れた。
その部屋は、八畳ほどの板張りの間の真ん中に八人掛けの大きな食卓を置いた、西洋風の造りだった。
部屋のしつらえは、昼に見たのと変わりはなかった。
だが、その食卓の上に何かが横たわっている。
僕は息を呑んだ。
白い…それが何かとはっきりと認める前に、僕の足は制御不能なほど震え出した。
怖気は足から僕の体を這い上がり、瞬く間に僕の全身を支配した。
まるで自分の体でないかのように四肢に力が入らない。
薄暗がりの下で、僕の拙い視力では、はっきりとはつかめなかったが、どうにもそれは仰向けで此方に足を向けている。
そのテーブルの半ば辺りに鳴人が、こちらに背を向けて蹲り、なにやら忙しなく動いている。
手元にばかり気をとられているのか、まだ僕には気付かぬ様子だった。
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