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袖口から出た骨も顕な手、大きすぎる襟刳りから覗く首筋も筋立つ有様で、僕は一目見た時、痛々しさに思わず目を背けた。
以前あったときよりも幾らも痩せている。
肌は紙よりも更に白く、だがそれはまだ歳相応の瑞々しい張りは失ってはいなかった。
彼は僕と同じ歳、今年で漸く二十歳になったばかりだった。
「小さ神というものを、君は知っているだろうか」
彼は静かに微笑み、続けた。
僕は、首を横に振った。
すると彼はまた目を細めて優しく笑った。
水を湛えたような彼の瞳に懐かしむ色が満ちていくのを、僕はなんとも言えない心持で眺めた。
彼は、独り言の様に虚ろに呟いた。
「あれは・・・そういう類のものだったのかも知れない」
「彼は今も君の所に」
僕は自分の言が些か常軌を外れていることを自覚しながら、そう聞くより他に出来なかった。
無論、そんなことが不可能なのは、誰よりも僕がよく知っている。
そんな僕の戸惑いを察してか彼は、整った顔を態と歪めて笑った。
静まりきった湖面を渡る風のように涼しい声で彼は言った。
「あの子が僕の所に来ることなどないよ。
結局、僕はあそこに何もかもを置いて来てしまった。
僕の心は未だにあそこに縫い付けられたままなのだから」
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