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そうして遠く、僕らのいる病室の壁を透かしてもっと向こう、彼がこれまでの生涯を過ごした家の、樫の木のある薄暗がりに目をやっているようだった。
僕はその木陰を思った。
あの土の中には今も彼が埋まっているのであろう。
そうしてその地面の上には、今僕の眼前にいる彼が、深く地中を凝視する彼の姿がありありと見える気がした。
たった一度、半年も前に目にしただけの光景だったが、それはつい小一時間前に見たことの様に僕の中で鮮明な像を結んだ。
僕達の同年齢からすると人一倍利発だった僕の従兄弟。
この癲狂院にあってなお、狂気にとらわれることなく過ごす彼を、僕は心底、気の毒に思った。
彼はあそこを遠く離れてなお、救われることはなかったのだ。
「ここに一つの事象がある、」
彼は数少ない私物の一つらしいその本を膝の上に広げた。
何度となく読み返されたであろうページは、すでにその本自体を変形させているらしく、手繰り寄せずとも目的のページでぱっと開いた。
彼は何やら外国語の細かい文字の並んだ行間を指でなぞりながら、それでいて殆ど暗記しているらしい、朗読でもする口調で、すらすらと訳して読み上げた。
「1852年、南米で、聖者に列せられた少女がいる。
享年8歳。死して数年が経過しても遺体は腐敗せず、その体は…」
そこまで口にして彼は僕を見、
「君が見たものと同じだ。過去にもあの子と同じことが起こっていたんだよ」と言った。
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