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「そう、そういう方が近いかもしれない。昔、日本では幼少であるということが聖的だと考えられていた。怪奇を招き易いと…若くして死ぬということは、
それなりに生への執着も大きいだろうと・・・」
そこまで言って、彼は額に手を当て、顔を顰めた。
「どちらにしても、僕はあの子にとり憑かれてしまった。その中に僕は疾しい欲望が全くなかったとは思わない。・・・この少女は聖人となった。
だがあの子は、僕一人の欲望のために玩弄されるように何度となく掘り起され、埋葬された。僕はそのことを今もって深く恥じている。
だからこうして、あそこから離れ、自由にならない今の身を選んだんだ。
だが僕は今になって思う。
僕は、もしかすると、僕一人の欲のためだけに、あの子を葬り去ってしまったのではないのかと」
「あの子は、もっと生きたがっていた。喩え心臓が止まったって、この世に留まりたがっていた。そう望んでいたんじゃないかと。僕がこの少女の父親ほどに信じるものが、強さがあったなら…」
彼は目を伏せた。
「あの時、君は僕に『罪深い』と言ったね。だけど、一体何が罪なのかさえ、今の僕には判別できない。君なら何とするだろうか。僕は、それとも僕は、もう狂っているのだろうか」
そうして口元を掌で覆い、涙をこぼした。
彼の涙を見たのは、それが初めてだった。
仮に僕が今何かを言ったところで、その一つとして彼の思惑に及ばないであろうことを自覚し、僕は黙るより他になかった。
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