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鳴人
彼、西向鳴人は、母方の従兄弟にあたった。
勿論、僕とは姓を異にしている。
僕の母の兄、僕にとっては伯父の長男にあたる。
彼等兄弟、彼には一人、弟が居た。
この話は彼よりも、一昨年、春を待たずして他界した享年12歳になる彼の弟、徹に由来している。
彼は生まれながらにして心臓が弱く、そう長くは生きられぬと医師から運命付けられていた。
それを了解した彼の両親が、どれくらい続くか判らぬ彼の脈をせめてそれが停まってしまうまでは恙無く生き抜けるようにと『徹(とおる)』と名付けたのだという。
僕はそれを彼の兄、鳴人から聞いた。
彼の両親と共に鳴人は、徹を傍目にも感心なほどによく面倒を見、それは大層な可愛がり様だった。
僕はそれを、母の実家を訪れる度、何度も目にした。
徹はやはり病弱な子供らしく色の白い、同じ年代の子供から察するに、とりわけ小柄な子供だった。
それと同時に頼りなげな愛くるしい容貌の持ち主でもあった。
そして、甘やかされて育ったというには稀な、心根の優しい、素直で驚くほど従順な子供だった。
徹は、周囲の気遣いに答えてか、医師の予言した年月を倍生きた。
そうして一昨年、彼の心臓はぜんまいの切れる様に、ある日、ことりと止まって再び動かなかった。
僕は、僕の父と共に彼の葬儀にも参列し、彼の顔も拝んだが、それは如何に彼が静かに最期を全うしたのかが判る、穏やかなものだった。
「おおよそ予想はしていたのだけれどね、それでも胸は痛むものだね。父の時もこれほどではなかったよ。徹は然程苦しまずに過ごしていただけに、却って喪失感が大きい」
僕一人を前にして、鳴人はそう言って笑った。
岡山の山間の田舎である彼の家は、土葬が通常だった。
そのために家の敷地内に家族の墓を設けるのが昔からのやり方で、鳴人と徹の父である僕の伯父は、さらにその前の年、腫瘍か何かを患って他界していた。
僕達の親類には、僕の母も同様、総じて早死にの特徴が、かなり濃く存在していたのである。
徹の遺体は、前年の骸が出ることを恐れて、そのすぐ脇に葬られた。
鳴人は、青い顔をしたまま、棺に土の盛られていくのを、一心に眺めていた。
それが僕が見た、最後になる筈の彼等兄弟の姿だった。
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