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道に面してこの辺りにしては珍しい四角く土塀に仕切られた敷地の奥は、そのまま背後の山へと続いていた。
ここが鳴人たちの、また僕の母の育った家だった。
鳴人は突然やってきた僕を、快く迎え入れてくれた。
「やあ、久しぶりだね、今朝がた君の手紙を受け取ったところだよ。何の支度もしていないけれど、この家にあるものは好きに使ってやっておくれ」
穏やかに微笑む彼は、僕が知るいつもの従兄弟だった。
いくらか面窶れはしては見えるものの、口調は快活で、屋敷の雰囲気などからも、荒んだ様子は見られなかった。
僕は、ここにくるまでに抱いていた不安が、単なる杞憂でしかなかたことに些か拍子抜けしながら、鳴人に続いて屋敷に上がった。
母の生家であるこの家は、僕もよく知っている。
田舎特有の、薄暗くやたらと広い襖で仕切られただけの座敷がだらだらと奥まで続き、それを取り囲むように板張りの廊下が廻らせてあり、庭を挟んで渡り廊下の向こうに、いくらか西洋風の小さな離れがある。
板張りの、比較的大きな窓を設けたガラス張りの明るい建物で、そこだけが2階建てになっており、一階には食堂と客間と思しき一間、二階にも二間程あり、鳴人はどうも、この離れで寝起きをしているらしかった。
彼は躊躇うことなく、その離れの客間に僕を通した。
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