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「ちょっと待っていてくれたまえ」
彼は、そういうと下駄を突っ掛けて庭に出、母屋の勝手に向かって行った。
しばらくすると、茶の用意を携えて戻って来た。
「あの、前に居たおばあさんは、今日は居ないのかい」
「暇にして貰ったよ。もう高齢だったし、僕一人なら自分の面倒くらいは見られるからね」と鳴人は言った。
僕はそれを聞きながら、漠然と、この屋敷は彼一人には広すぎる、と思ったりした。
そう思うと、何かしら不健康な趣がして僕はまたもや不安になり始めた。
「君、まさか、あれからずっと屋敷に篭りきりぢゃあないだろうね」
「身の回りのものを整える程度には街へも出ているよ」
「それは不健全だよ、あまり独りきりで居ないほうが好い。気が滅入らないかい」
「それは君には言われたくないよ。君こそ旅行するにしたってなんだって、いつもひとりぢゃあないか」
そう言えばそうだったと、僕らは互いに笑いあった。
「村の人が何くれと世話を焼いてくれるよ。」と鳴人は、少し言い訳がましく接いだ。
それから僕らは、今回の僕の旅の話や最近読んだ本の事など彼是と、とり止めもなくなく話し合った。
そこで鳴人は近々復学を考えているとも言っていた。
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