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プロローグ 最高の仕事、モブ。
001
僕は半分崩れかかった魔王城を見ながら、隣に立っているエレナと共にいた。僕たちは、どこか退廃的でありながら、成し遂げた後に感じる特有の達成感で美しく感じられる悪魔の城を眺め、今まであったことを思い返して、感傷に耽っていた。
このたった一か月半の間で、それだけの短い間であったこととは思えない程様々な出来事があった。自分にとっては、それがとても楽しいことであったように思えたが、よくよく考え直してみると、悲しいことや辛いことが、そのウェイトの大部分を占めていると言っても過言ではないことに気がついた。
しかしながらそれらの艱難辛苦を乗り越えたからこそ、今は「モブ」ということに対して、それ以上に「仕事」ということを心の底から理解できたように思えた。
「エレナ、働くってなんだろう?」
僕はそんな、哲学的な問いをエレナにした。
「働くことねぇ。まあ、私たちの仕事に限って考えてみると、普通の人たちからすれば、目立たなくて、無能で、何をしているのかということすら分からない、ただの群衆のように見えるのよね。」
彼女はそう言って愉快気に笑う。
「まあ、そうだろうけど。でも僕たちの仲間、秋月さんやルドルフさん、茜音さんやネビルさん、それに師匠も含めて、ああいう人たちはそんな風じゃないだろう?だから僕たちの仕事ってなんなんだろうって、疑問になったんだ。」
僕はそう言いながら、目を細める。
あの事件の前までは、僕は「楽な仕事」こそが崇高だと考えていた。
僕は、自分の仕事への誇りを失ってしまっていたのだ。
僕は仕事には「効率の良さ」を求めていたし、楽をして金を稼ぐことが良いと思っていた。しかし最近は、それについて考えさせられることが多くなった気がする。
エレナは少し迷いながら話し始めた。
「モブってさ。多分、「役に立たない」って事じゃなくて、ただ「目立たない」ってことなんじゃないかな。誰もその良さに気づけずに、でも本当は大切な人。勇者みたいにキラキラしていなくて、でももっと現実味があるっていう職業。」
「確かにそうかもしれないね。」
僕はそう言って笑い返す。
「でもさ、その「目立たない仕事」にこそ見えない価値があったりするんだよね」
エレナはその髪を靡かせて僕の方を見つめる。
「そう言う意味ではさ、無駄な仕事なんてないのかもね。」
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