第四話 舞台づくり

2/5
前へ
/161ページ
次へ
魔王を斃すことができる生命体を作るということは、その存在自体が救世主であるのと同時に、人間にとっても脅威なってしまう。 「救世主である」という事実の裏を返せば、全人類の生殺与奪がこの人間に委ねられているということが言える。そのため、もしこの力を逆手に取られてしまえば、救世主であったはずの存在が、一気に脅威と化してしまう。 それを防ぐのがこの職業、「モブ」である。 世界中の人間に、この存在を「勇者様」として認知させ、崇めさせる。 国は大量の金を使って、この勇者を援助する。 見目形のよい人間を侍らせ、最強の力を持たせる。 これにより、勇者は心に余裕を持ち、人々を助け始める。それにより、国や人民に忠実になり、民衆も勇者や国に忠実になる。 しかし例外的に、それが人民にとって望ましくない結果をもたらす問題因子が出現する可能性がある。 また、勇者自身が魔王を斃すということに興味を示さなくなる可能性もある。 そこでこの仕事の出番が来る。 勇者を魔王のいる場所まで安全に誘導し、勇者の残した問題を解決し、様々な国の町や村に出向いて勇者が出入りしやすくなるよう根回しを行い、時には情報操作や従順で無くなった勇者の暗殺すら行う。 そのような、まさに「秘密組織」のような組織がこの職業なのだ。 そのため国王に認可された者しか入ることはできないし、そもそもその存在は世間で認知されていない。また、その仕事柄、目立ってもいけない。 これにより一般市民には、その姿は村人に(ふん)し勇者を誘導する姿として映る。 この経緯から、この職の人間は群衆を意味する「モブ」と言われるようになったのだという。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加