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002.
僕たちはその後、茜音さんに付き添って仕事の様子を見学していた。
茜音さんは満面の笑みで武器屋の強面の主人に笑いかけ、世間話をし、最後は武器屋の主人を満面の笑みにして武器と防具を受け取る。その後、領主の邸宅の前の警備兵に満面の笑みで敬礼して流れるように許可証を提示し、執事から判とともに金を受け取る。誰一人として不快な顔にさせず、仕事をすばやくこなす。
隣を見るとエレナさんが顔をほころばせて仕事の様子に見入っていた。
しかし僕と目が合うと、彼女は「ふん。」と言って僕から顔を背けるのであった。
「じゃあ次は君がやってみようか。」
そう言って茜音さんは僕に笑いかけてくる。
「ぼ、僕がですか?」
「そうよ。あなたも「モブ」でしょ?」
そう言って、こっちこっちと手招きをする。そこには禍々しい看板に小さく「魔法屋」と書いてあった。
「こ、ここですか?」
「そうよ。ここがあなたの初仕事場よ。店主のお婆さん、怒らせるとすごく怖いから、怒らせないようにね。怒らせると、カエルにされちゃうかもよ~」
そう言いながら、茜音さんはお化けのポーズをして脅かしてくる。
するとエレナさんが、その様子に苛立ちながら怒り始めた。
「こんなヘタレに仕事を任せるなんて。私の方が上手くできる自信があります。」
「じゃ、じゃあ僕みたいな新米が行くのはまずい……」
「ほら。行ってきなさい!」
そう言って茜音さんは魔法屋の扉を開け、僕を中に突き飛ばした。
僕はバタンと音を立てて閉まる禍々しい扉を見て「終わった」と思った。
途端、部屋が暗くなり、扉から差し込む薄あかりのみが不気味に部屋を照らした。
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