晏寿

14/24
266人が本棚に入れています
本棚に追加
/532ページ
   全国的に内戦が頻発する中、小さくも外国人居留地を抱えるこの地は英米を後盾に持つ新政府側に付く以外の選択肢がなかった。  無論それはこの地だけの話ではなく。誰も彼もが新政府の機嫌を伺いながら己がこの先をどう生き抜くかに腐心していた─────正に時代の黎明期。  殿は新政府を如何に利用するかに思いを巡らせている。実に楽しそうに。 「新しい船を作りたい。知恵を貸せ」 「船、でございますか」 「今あるコルベットは老朽し耐えられる重量にも限りがある。英米に言われるまま買うも手だが、父上が育てた精錬方は国内でも大型船の製造は十分可能だと言うておる」  殿は欧米諸国のように、日の本でも今に鉄道が輸送の要になると仰られる。船もまだまだ大型化してゆくから、とにかく製鉄と造船、そして港の拡張を全て同時に進めよと指示された。 「横濱の外れにいい土地がある。先年より父上が投資されていた寂れた投錨地だが幕府の解体で宙に浮いている。このどさくさに紛れて手を打つのだ」  そして最先端の技術を習得させる為、優秀な者から希望者を募ってどんどん留学させよとも。  運ぶのが『人』ならば既存のコルベットで事足りる。『人』は鉄より船より領地を潤してくれるのだからそこに最も予算を割けと。 「お待ちください殿……! この世情不安の中、そのように事を急いては……!」 「どうした誉……」 「は」 「其方、父上がご存命の折は次々と新しい事業を推し進めておったではないか。我が藩が水運で潤ったのは其方の働きがあったればこそ。次は陸だ。陸運の発展にはまだまだ水運の助けがいる。其方の経験と知恵を以って大いに腕を振るってくれ」
/532ページ

最初のコメントを投稿しよう!