あぶく

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

あぶく

 初めてそれを見たのは、学校帰りの用水路。  水面に、ぶくぶくとあぶくが浮かんでいた。  下に何かいる。あるいは泡の浮く地形。そう思って見流した。でもそれ以来『あぶく』を見る機会は増えた。それも、頻繁かつ、 今にして思えば不自然に。  海、川、用水路。大雨の後で溢れたどぶ。そういう、かなり大量の水がある場所では、必ず水面にあぶくを見た。  十センチ四方くらいの範囲にぶくぶくと泡が浮く。それを、ある程度の水量がある水場でいつも見てきた。だから気になるのも仕方がなかった。  どうしてあそこは泡立っているのだろう。下に何かいるのだろうか。  違う場所も同じように泡立っている。だったら泡立つ箇所総てに何かあるのだろうか。  いつからか抱いた疑問。それを長いこと抱えながらあちこちの水面を見続けてきた。  長いこと、この『あぷく』について考えていたから、最近はなんとなく考えがまとまりつつある。  まだまだ仮設の内だけど、一応きちんとまとめてみようか。  そう思った矢先に、たまたま通りかかった川面に、気を引かれるあぶくを見つけた。  あの水泡はどういう理由で上がっているのか。  それを考えようとした瞬間、自分では何もしてないのに、俺は目の前の水中に身を投げていた。  いきなりのことにもがき苦しみ、そのせいで余計に水を飲み、自分の寿命を縮める。  そんな状態に陥った俺の視界に、これまで一度足りと見たことのない生き物が映った。  まったく知らない謎の生命体。それの、おそらく口だと思う辺りが動く。そこから飛び出た小さな泡が水面に向かう。そして…かつて俺が目にしてた気泡になった。  なるほど。あのあぶくがどうしてできたか判らない訳だ。  俺の知らない生物の呼吸の一部。さすがにそれは判らないよな。  長年抱えていた謎は解けた。俺の気持ちは超満足だ。…だから、多分迎える『主人公は死にました』的エンディングが訪れても悔いはない。 あぶく…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!