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「わしがなんだと?」
見る間に太陽王の体が震え出すのを、アランは冷めた目で見ていた。良かった。思ったより、自分は冷静でいられる。
「ドムより、陳情が来ております。陛下がお認めになった専売の許可を振りかざし、一部の商人たちが利益を独占し、あろうことか、麻薬の流通にまで手を出したと。その為に、ドムでは麻薬に溺れる者が多数溢れております」
「わしが?誰がそのようなことを」
「……専売の許可は陛下しか出せません」
太陽王の目が落ち着かなく左右に揺れ始めた。
「……わしの知らないところで勝手に誰かが……」
ぶつぶつと呟く王を無視して、アランは続けた。
「さらに麻薬の流通を図るため、隣国との道を繋げたそうですね。確かに、これは王一人許可したところで、進むことではありません。大臣のどなたかと相談されましたか」
太陽王の目が大きく見開かれていくにつれ、アランの目は細くなっていった。ここまで来たら、手を抜くことはできない。
「カ、カロイが……」
内務大臣の名が出て、王のそばに控えていた従者の肩がピクリと動いた。
「カエルムという麻薬をご存知ですか。今しがた、陛下が飲まれたものです。その薬欲しさに、商人たちの甘言を鵜呑みにしましたか」
臣下の位置で、片膝を付いていたアランは、立ち上がって太陽王に近づいた。
「な、なんだ」
玉座の上で太陽王はギリギリまで後ずさった。アランは王の耳元でささやいた。
「ガザが動いております」
太陽王は文字通り震えあがった。
「陛下の造った道を通って、攻めてきますよ」
背筋を伸ばして、王を見た。このおびえようは、元々なのか、薬のせいなのか。どちらにしても、これは太陽王のなれの果てだ。
唯一無二の存在だろ……シンの言葉が甦る。
「まず、専売特許の取り消しを。それから、隣国への道の封鎖とカエルムの取り締まり、その全権をわたしに」
王の従者がそっと姿を消すのを、アランは目の端に捕らえた。王はアランを見ているが、動こうとしない。アランは声を張った。
「わたしにドムの改革の全権を!」
父王はのろのろと右手を上げた。正式な命令を下すとき、王は太陽神に代わってという意味で、右手を上げる。
「ドムの全権をアウローラ王太子に託す」
震える声であったが、太陽王ははっきりとそう告げた。
アランは跪き、首を垂れた。そして、素早く立ち上がると、足早に立ち去りかけた。
ふと立ち止まると、太陽王を振り返った。
「父上、お体を大切にしてください」
それだけ言うと、もう振り返りもせず、謁見の間を後にした。
謁見の間を出ると、コルが待っていた。
「カロイの腰ぎんちゃくが、慌てて出ていきましたが」
「ああ」
アランは少し考えると、薄く笑った。
「カロイにこう伝えよ。お前とする話はないから、一時間で書類を用意せよと」
「不問にするのですか」
アランは口を歪めた。
「犯人捜しをしている時間はない。大事なのは黙らせておくことだ」
「はっ」
「それができたら、お前が一隊率いて、書状を持っていけ」
コルは顔を曇らせた。
「わたしが……しかし」
「四の五の言うな。上流の町に直接突っ込んでいけ。下の方はシンたちに任せよう……その前に一番早駆けできる者をよこしてくれ」
言うだけ言うと、アランは歩み去った。コルはそんなアランの背を見送ると、内務大臣の私室に向かった。私情は後回しだ。コルは表情を消した。
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