Ⅳ 不穏

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「わしがなんだと?」  見る間に太陽王の体が震え出すのを、アランは冷めた目で見ていた。良かった。思ったより、自分は冷静でいられる。 「ドムより、陳情が来ております。陛下がお認めになった専売の許可を振りかざし、一部の商人たちが利益を独占し、あろうことか、麻薬の流通にまで手を出したと。その為に、ドムでは麻薬に溺れる者が多数溢れております」 「わしが?誰がそのようなことを」 「……専売の許可は陛下しか出せません」  太陽王の目が落ち着かなく左右に揺れ始めた。 「……わしの知らないところで勝手に誰かが……」  ぶつぶつと呟く王を無視して、アランは続けた。 「さらに麻薬の流通を図るため、隣国との道を繋げたそうですね。確かに、これは王一人許可したところで、進むことではありません。大臣のどなたかと相談されましたか」  太陽王の目が大きく見開かれていくにつれ、アランの目は細くなっていった。ここまで来たら、手を抜くことはできない。 「カ、カロイが……」  内務大臣の名が出て、王のそばに控えていた従者の肩がピクリと動いた。 「カエルムという麻薬をご存知ですか。今しがた、陛下が飲まれたものです。その薬欲しさに、商人たちの甘言を鵜呑みにしましたか」  臣下の位置で、片膝を付いていたアランは、立ち上がって太陽王に近づいた。 「な、なんだ」  玉座の上で太陽王はギリギリまで後ずさった。アランは王の耳元でささやいた。 「ガザが動いております」  太陽王は文字通り震えあがった。 「陛下の造った道を通って、攻めてきますよ」  背筋を伸ばして、王を見た。このおびえようは、元々なのか、薬のせいなのか。どちらにしても、これは太陽王のなれの果てだ。  唯一無二の存在だろ……シンの言葉が甦る。 「まず、専売特許の取り消しを。それから、隣国への道の封鎖とカエルムの取り締まり、その全権をわたしに」  王の従者がそっと姿を消すのを、アランは目の端に捕らえた。王はアランを見ているが、動こうとしない。アランは声を張った。 「わたしにドムの改革の全権を!」  父王はのろのろと右手を上げた。正式な命令を下すとき、王は太陽神に代わってという意味で、右手を上げる。 「ドムの全権をアウローラ王太子に託す」  震える声であったが、太陽王ははっきりとそう告げた。  アランは跪き、首を垂れた。そして、素早く立ち上がると、足早に立ち去りかけた。  ふと立ち止まると、太陽王を振り返った。 「父上、お体を大切にしてください」  それだけ言うと、もう振り返りもせず、謁見の間を後にした。  謁見の間を出ると、コルが待っていた。 「カロイの腰ぎんちゃくが、慌てて出ていきましたが」 「ああ」  アランは少し考えると、薄く笑った。 「カロイにこう伝えよ。お前とする話はないから、一時間で書類を用意せよと」 「不問にするのですか」  アランは口を歪めた。 「犯人捜しをしている時間はない。大事なのは黙らせておくことだ」 「はっ」 「それができたら、お前が一隊率いて、書状を持っていけ」  コルは顔を曇らせた。 「わたしが……しかし」 「四の五の言うな。上流の町に直接突っ込んでいけ。下の方はシンたちに任せよう……その前に一番早駆けできる者をよこしてくれ」  言うだけ言うと、アランは歩み去った。コルはそんなアランの背を見送ると、内務大臣の私室に向かった。私情は後回しだ。コルは表情を消した。
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