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「来た」
ナナたちの顔を見ると、信は持っていた手紙を軽く上げて見せた。
「専売特許は取り消される。カエルムの取り締まりも行われるそうだ」
ナナたちはどよめいた。信じられないという顔をしている。それはそうだろう。長年、動かすことができなかった事態が、信たちと会って四日で動いたのだ。
「そ、そんな、簡単に……」
誰かが思わず言ったのを、信はチラリと見た。
「簡単ではないよ。ここからが勝負だ」
信はぐるりと男たちを見回す。
「まだ、上の連中はこのことを知らない。あと数時間で、正式な使者が書状をもってやってくる。それまでにカエルムを抑える。ナナ、カエルムが入ってくる日時と保管場所は分かった?」
「ああ、今日の午後らしい。保管場所は上流の町に三ヵ所ある」
ナナは地図を広げた。北、東、西の大商人の館近くに印がされている。
「今日の午後か。使者とどちらが早いか微妙だな」
信はじっと地図を見ると、指で何度かテーブルをたたいた。
「三ヵ所の保管場所、今日入ってくるのも、すべて抑えよう。使者に連絡しておくから、それまで持ち出されないように、俺たちが押さえておく。場所を変えられては面倒だからな」
信は顔を上げ、ナナを見た。
「俺とナナとランで、上流の町三ヵ所を抑えておく。残りの者で、盗賊に見せかけて、入ってくる荷馬車を襲ってくれ」
男たちは、顔を見合わせた。ナナも難しい顔をしていた。
「三人で三ヵ所って大丈夫か?」
「ああ」
信は呆れたように言った。
「大体、他の奴は上の町に入るのも難しいだろ?」
「お前は大丈夫だっていうのか?」
男の一人が、不満そうに言った。
「もう上の町で仕事を得ている」
「は?」
信は持っていた鞄の中身を見せた。そこには石を削る道具が一式入っていた。
「俺、石工なんだ」
こんな物騒な石工がいてたまるか。皆が呆気に取られている中、ナナはあることに気が付いた。
「ランはどこだ?ずっといないな」
「東の奴のところで働いているよ。動いてくれる仲間も、たくさん増えたって、さっき報告があった」
「……お前たち、本当に何者だよ」
相手が誰でも利用しようと、不問にしていた疑問を、ナナは思わずまた訊いてしまった。
「だから、石工と女中」
信はニヤリと笑って言った。最初に会った日の微笑みと同じ微笑み。ナナはぞくりと背中が泡立った。
「よし、行こう。早くしないと、間に合わないぞ」
信はそう言うと、先だって部屋を出ていった。
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