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「東の御館様!」
東の大商人である男は、日ごろから騒々しくされるのが大嫌いである。北の大商人がカエルムの新しい取引ルートを開拓したときも、苦々しい顔はしたが、騒ぎ立てなどしなかった。その馬鹿息子が、女にひどい目にあわされ、半裸でのびているところを、東の大商人の息がかかったミランダの店員に発見されたと聞いた時も、ほくそ笑みはしたが、大笑いはしなかった。
苦々し気に、大声を放った男を睨みつける。しかし、部下の男は黙りはしなかった。主人の怒りを買っても、伝えなくてはならなかったからだ。
「王旗を掲げた一隊が、こちらに向かってきます」
「王旗だと?」
確かに急用だ。だが、王はこちらの権限を認めている。カエルムで釣り上げた王が、そうそう気を変えるとは思えないが。
「誰か探らせに走らせたか」
「はい、太陽王からの使者だそうです」
主人は眉間にしわを寄せた。
「使者の名は」
「近衛兵警備隊長コルニクス殿です」
「コルニクス……王太子の犬か」
主人の顔に怒りが走り、さすがの部下も身を縮こまらせた。
「おい、カエルムを他の場所に移せ」
言われて、部下は逃げ出すように走って行った。
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