Ⅴ 神意の行方

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 薄暗いユアナの部屋で、婚礼の舞は伝えられた。その動きはさほど複雑ではない。単純な動きの組み合わせがほとんどであった。難度であれば、豊穣の舞より数段易しい。  ユアナによると、舞の美しさも重要だが、型通り間違いなく順番に舞うことが大切なのだそうだ。 「間違えてしまうと、無事に太陽神の元に行くことができないと言われています」  凛よりアシュランの方が熱心なのではないかと思うほど、アシュランは真剣だった。十年後に伝えなくてはならないから、当然かもしれない。  一回踊ったら、そのまま消えてしまうわたしとは違う。  十年ぶりに人と接する興奮も、もうすぐ殺されてしまう恐怖も、ユアナからは感じられなかった。ただ淡々と任じられた使命を果たしているといった感じだった。 「あなたは怖くないのですか?」  熱心に説明している横顔を見ながら、凛は不意にそう聞いてしまった。  ユアナは戸惑ったように顔を上げながら、それでも質問の意味は分かったようで、静かに答えた。 「わたしはもう空っぽですから」 「え?」  聞き返すと、ユアナはしっかり凛の顔を見て答えた。 「この十年間、私の中には婚礼の舞しか入っていませんでした。それを渡してしまえば、私はもう空っぽです」  天に召されるのに、何の躊躇もありません。 「姫様は恐ろしいのですか?」  逆にユアナが凛に質問したのを聞いて、アシュランがぎょっとした顔をした。  凛は困ったように首を横に振った。 「それが分からないのです……でも、皆の為にも、晴れ晴れした気持ちで、その日を迎えたいと思います」  ユアナは頷いた。  凛はそんなユアナの顔を見て付け加えた。 「でも、そんなことを聞いてくれたのは、あなたが初めてです。なんだか……嬉しかった」  はにかむ凛を見て、ユアナはふんわりと笑った。 「貴方様が巫女姫様に選ばれた理由が、分かる気がします」  そうして、アシュランを見ると、いたわるように一つ頷いた。
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