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四子門が見えてきて、蘭はほっと息をついた。王宮が見えて、安心するなんて、と苦笑いする。
信と別れて、数名の近衛兵たちとカエルムを処理し、帰路についた。近衛兵たちは蘭の扱いに戸惑っているようだった。
しかし、蘭は馬も乗りこなし、長時間の移動でもへばることなく、野宿でも平気な顔をしてさっさと寝てしまったので、男たちは気にするのを止めた。蘭は近衛兵と同じ服装をしていた。数日の強行で、顔も服も汚れ、少し伸びた髪を束ねていた。その髪も埃にまみれ、男に見ようと思えば見えたことも、一因だった。
ある夜、全員が疲れて眠ってしまい、火が絶えてしまいそうになったことがある。その時、蘭が気付いて火を継いだことで、皆に認められることとなった。
野宿で一番気を付けることは、火を絶やさないこと。針森の教えである。
都が見えてくるころには、蘭も雑談するほど、気安い間柄となった。
「ドムの下町に比べたら、ここは天国だな」
都に入り、少し浮かれた一人が、こう漏らす。他の男たちも同意した。
ガザ帝国に侵攻の気配あり。その為、早急にカエルムの道を埋めよ。そう命令が下ったことを、作業に加わっていない近衛兵たちも知っているはずなのに、長年外からの戦火に脅かされなかった国の兵士は、現実味がないようだ。厳重に口外を禁じなくても、皆忘れているかもしれない。
兵士たちののん気なやり取りを聞きながら、蘭は不安になった。
自分も外の国を知っているわけではない。
しかし外の国から入ってきたもので、あんな惨状になった町を見てきた蘭は、警戒心が彼らよりはあった。
ガザが認知せずに、カエルムが運び込まれていたわけはない。あの状態はガザも関与して、作り出されたはずだ。
都に戻ったら、まず蘭が王太子に報告するように言われていた。皆の前でコルに言われた時、他の近衛兵たちは驚いていたが、蘭としてもコルとしても、当然だった。作戦の最初から関わってきたからだ。それは蘭も分かっている。
本当はすぐにザックの店に戻りたい。ザックやニノ、キースの顔を思い浮かべて、蘭はため息をついた。王宮での、そしてそれに付随する様々なゴタゴタはわたしには向いていない。一心に布を織る方が向いている。
しかし、同時にアランのことを思う。アランとアランの夢のこと。アランは大丈夫だろうか。太陽王はどうなっただろうか?
あの夢はまだよく見る。蘭はまだ、アランが谷底に落ちるのを助けられないでいた。
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