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自分の足元に散らばった粉を、這いつくばってなめている王を眺めながら、ウェンは思い出し笑いをしていた。
こんなにタイミングが合うなんて、運命としか思えない。
王太子のところに報告に行く女兵士と、門で出迎えた女官とのひと悶着の噂を聞いて、ウェンはもしやと思った。
口実はある。内務大臣になった報告は、より効果的にアランを驚愕させるために使おうと思っていたが、もう一つ楽しいおまけが付いてきた。
予想通り、アランの部屋には彼女がいた。ドムの盛り場で見かけた、北の息子に落ちたふりをして、全然落ちていなかった女。そして逆に蹴り棄てていったという。
名前の秘密を暴いたら、二人とも、面白いほど驚いてくれた。
そしてその後の、挑むような蘭の目。
「フ、フフフ、フフフ」
止まらなくなった笑い声に驚いた王が、おびえて顔を上げた。自分に危害を加えないと分かると、また床をなめ始めた。
あの目。ゾクゾクした。
自分に屈服させたら、どんな顔になるだろう。それでもまだ、あの目で僕をねめつけるだろうか。
「父上」
太陽王のなれの果てに話しかける。王の耳には届いていないようだった。
「貴方の大切なご子息のことは、僕にお任せください。愛しい異母弟……かもしれませんからね」
たっぷり可愛がってあげます。ウェンはペロリと唇をなめる。
反応しない王の顔を蹴飛ばすと、王は呻き声をあげ、鼻を抑えてうずくまった。押さえて指のあいだから、血が伝って落ちている。
それを見ながら、ウェンの興奮は止まらない。
アランと蘭の間の空気は、主従関係だけではなかった。
「坊やは分かっているのかな」
ウェンは独りでつぶやく。
「蘭は針森の女だよ」
穢れた女。
ウェンはその響きを、懐かしい痛みと共に、思い出していた。
「助けてあげなくっちゃね」
僕みたいなのが生まれちゃう。
「ねぇ、父上」
王にそう呼びかけると、立ち上がって、濡れた手ぬぐいを持って来る。床の粉をふき取り、王の顔や手を丁寧に拭った。血にまみれた手ぬぐいを、屑籠に放り込む。王の鼻からの出血は、もう止まっていた。
王の部屋の外に出ると、明るい光に目がくらんだ。王の主治医が心配そうに待ち構えていた。
「あの、ウェン様、中で一体何を」
自分が頼ったものの、少しずつ王の体に痣が増え、一時は正気を保つが、そのうちまた禁断症状が現れる。主治医は不安だった。
「お気持ちを宥めるために、お話しているだけだよ」
ウェンはあっけらからんと言う。では、あのうめき声はなんだというのだ。時々聞こえる、物をひっくり返すような音は。
「しかし……」
主治医が言うのを遮って、ウェンは投げるように言った。
「あ、屑籠の中のごみ、捨てといて。君の為に」
その目は嗤っていた。主治医は言葉を飲み込み、頭を下げた。
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