Ⅴ 神意の行方

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 サラは白い石段に座り、物思いに更けていた。  豊穣祭が無事終わり、あと三ヵ月で婚礼の儀が執り行われる。豊穣祭前の浮かれた雰囲気とは違い、どこか重苦しいような、それでいて、そう感じてはいけないような、居心地の悪い空気が神殿を覆っていた。  無理もない。どう言い繕っても、巫女姫が死んでしまうのだ。  婚礼の儀を初めて経験する巫女は、不安な顔で辺りを窺い、経験している年配の巫女は口をつぐんでいた。  恐ろしい。  そう思ってしまう自分の罪に打ち震えながらも、サラはごまかすことができなかった。  今でも、巫女姫を見て、真っ先に浮かぶのは「リン」という名だ。サラの舞を褒めてくれたリンの笑顔がすぐに浮かぶ。  それにアシュラン。リンが巫女姫になったのは自分のせいだと、あの夜サラの前で泣いた。しかし泣いたのはあの夜だけ。次に日からは、人が変わったように、巫女姫に尽くした。涙はもう見せない。自分のせいでと謝ることなど、絶対にしない。覚悟を決めたアシュランは、昔のような笑顔も二度としなくなった。  一体、太陽神は何を欲しておられるのだろう。 「サラ」  急に呼ばれて、サラは物思いから覚めた。声の主を認めて、ぎょっとする。 「リ……巫女姫様」  そこにはいるはずのない人物。今まさにサラの頭の中を占めていた本人が、ニコニコ笑っていた。  しーっとリンは人差し指を口に当てる。そして、サラの横に座った。 「セレネの目を盗んで、忍んできたの」  屈託のない様子に、サラは思わず見とれる。三ヶ月後に死ぬ人にはとても見えない。 「豊穣祭の舞、とても素晴らしかったわって、サラにどうしても伝えたくて」  今年の豊穣の舞も、結局、サラが舞うことになった。リンの前で舞うことができて良かったと、素直にうれしく思った。  今年が最後だ。 「ありがとうございます。でも来年は若い巫女になると思います。一人、とても上手な子がいて……」  しゃべっているうちに、失言をしたことに気が付いた。リンには来年がない。  サラの声がとぎれていった。 「うん」  リンは労わるように返事を返す。 「だから、サラの最後の豊穣祭の舞が見れてよかったわ」  笑顔で言う。 サラの目から大粒の涙が零れ落ちた。涙は一旦溢れると、止めることなど不可能だった。次から次へと流れ落ちる。 「サラ……」  リンはサラの名を呼んだきり、サラの涙をじっと見ていた。リンの目からは涙はこぼれなかった。やがて嬉しそうに、ほほ笑んだ。 「ありがとう」
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