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私は今、カウンセラーの仕事をしている。
老若男女、この世には悩みを抱えた人たちで溢れている。上司からパワハラを受けているサラリーマン。夫との冷えた仲に悩む主婦。不登校の中学生・・・。
なかでも特別共感してしまうのは、不登校の中学生だ。何故なら私も、かつて不登校だったから。
あの頃。
中学2年だった私が登校して、まず一番最初にしなければならなかったのは、下駄箱の中の上履きから、画びょうを取り出すことだった。次にすることは、教室の机の上に書かれた落書きを消すこと。私はとあるクラスメートからいじめをうけていた。
最初のうちは、我慢して登校していた。けれど、ある日、机の中にゴミを詰め込まれ、ついに我慢の糸が切れた。私は、学校に行けなくなった。
いじめはいつの時代もどこの場所でも必ずおこる。私は、自分と同じ思いをしているだろうひとたちのことを考えた。負けたくない。私は家で勉強をした。カウンセラーになる夢を抱いたのはその頃だ。必死に勉強し、私はカウンセラーになる夢をかなえた。
ある日のこと。
いつものように出勤し、私は仕事を始めた。
仰天するようなことがおこったのは、午後2時頃だった。
新患、山口アキさん。この時点でなんだか妙に嫌な予感がした。
山口さんがカウンセリングルームに入ってきた時、私は確信した。
このひとは、かつて私をいじめていた昔のクラスメート!
結婚しているのだろう名字は変わっているけれど、少しクセのある髪といい、目の下のほくろといい、昔のクラスメートに間違いなかった。
たいして昔のクラスメートこと山口アキは私のことを覚えていない様子だった。いじめた方は忘れるけど、いじめられた方は忘れないって本当なんだな。
山口アキは疲れた表情で己の身の上話を始めた。夫のつくった借金。姑との確執。最近は2人いる子どものうちのひとりが、学校を休みがちだという。
因果応報。そんな言葉が脳裏をかすめた。いやでも、しかし。私はプロのカウンセラーだ。お金をいただいているのだから、誠実に仕事をしなければ。
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