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「じいさんもばあさんも風習を持ち出されたら何も言えなかったみたいでな。熱を出すたびカミソリか何かで切られたから体中こんな調子さ」
どうりで久我はいつも長袖ばかり着ているわけだ。
夏でさえ長袖だったのだ。暑さを堪えるのもロックだろう?なんて戯けていたが、まさか傷を隠すためだったとは。
俺はすっかり酔いの醒めた頭でこれまでの久我の行動と、先程見たばかりの傷を交互に思い出していた。
――虐待をしていた親は今どうしているんだろう?確か久我は実家暮らしだったよな?
軽々しく虐待をする親を許せないという思いと、この話がどこまで本当なのかを確かめたかった俺は久我にたずねた。
「今もそんな親と一緒に暮らしてるのか?」
「親はガキの頃に離婚したんだ。そんで小学生からこっちに越して来て親父とふたり暮らしってわけ」
「え?」
親父とふたり暮らし。父方の祖父母の村に伝わる風習だったと久我は言っていた。
それなら久我を傷付けたのは当然……。
「ん?ああ、俺の体にせっせと傷を作ってたのは母親の方だよ」
てっきり父親がやっていたのかと思っていた俺は驚き言葉を失くした。
久我はケラケラ笑ってから続けた。
「不思議だよな、よそから嫁いで来た母親が地元じゃもう誰もやってない古臭い風習を信じてたんだぜ」
再びタバコに火をつけた久我はほんの少し俯いている。
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