第1章

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道着に着替えてから一通り練習メニューを終えて、試合形式の練習を始めることになった。 防具を身に纏って、竹刀を向け合い、構える。この部には、アタシと時雨先輩しかいない。 なぜ、他に人がいないのか、二人で部が出来るのか。理由はアタシ達がそれなりの成績を残しているから、だとは思うけど、それ意外にもきっと何かあるのだろう。 たぶん、時雨先輩が暗躍しているのかな? なぜか新入部員もこないし。 そんなわけで、二人しかいなかった。だから、ここには審判員はいない。 試合を始めるのはいつも、アタシの一太刀だ。 「メンっ」 時雨先輩の頭部に向かって竹刀を振り下ろす。 それを凌がれたので、一旦空いた胴にすぐさま打ち込む。 時雨先輩もすばやく反応してしのぐ。その打ち合いをアタシ達は何度も繰り返す。基本、時雨先輩はアタシに竹刀を振らない。 とは言っても、女の子に対する手加減とかではなく、時雨先輩の戦闘スタイルだからだ。 この人は、相手の全力をシノギきって、隙が出来たときに、鋭い一撃を決める。 アタシも、びっくりさせられるような一撃をこの部に入って間もないとき、何度も受けたことがある。そのしのぎきる練習と隙を見極める練習をアタシでしているのだ。 ……時雨先輩曰く、前年度の夏からアタシには隙がなくなった、と言っていた。 その時期に、何があったのか、アタシは覚えている。アナタとの試合に集中したくなるとっても大事な出来事でした。 真正面から受け止めてくれたアナタに。 そんな時雨先輩だからこその、攻撃の隙が出来る。アタシの攻撃をしのぐと、アタシの隙を突こうと、竹刀が動くのだ。 その一撃が、必殺にならないと考えた途端、時雨先輩は竹刀をとめる。 それが、彼の弱点だった。 躊躇う、迷う、そしてほんの一瞬の空白が出来てしまうのだ。そこに私は刀を振るう。 隙だらけの先輩の胴に向かって竹刀を叩きこんだのだ。 「やっぱ、鞘野はつよいなぁ」  あれから数戦して俺は、道場の床に座りこみながら防具をはぎ取るように脱ぐ。 「先輩が隙だらけなのが悪いんです」  面を取り、頭にかぶっていた頭巾を取りながら鞘野が言った。流れる汗が、光を反射し、彼女の綺麗な黒髪をよりつややかに見せている。ばさっと流れる髪はきれいだった。
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