金曜日の珈琲店

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「魔法珈琲だよ」 「魔法珈琲?」 「一口飲むととてもぐっすり眠れるコーヒーだよ」  しばらく沈黙が流れた。流れ続けた沈黙の果てに、私は眉をひそめた。 「なんの薬を入れたんですか?」 「なにも入れてないよ。本当に魔法がかかった普通のコーヒーだよ」 「嘘をつかないでください。どうせ睡眠薬入れて何か企んでいるんでしょ?警察呼びますよ」 「いやいや、本当に何も入れてないよ!!あと警察だけはマジで勘弁して!!」  普段のマイペースでおっとりとした彼からは想像もつかない慌てぶりと俗っぽい言葉使い。合掌して謝っているところも可愛げがある。 「あんまりネタバレはしたくないけど仕方ないか。ねぇ澪ちゃん、君最近何か悩んでない?」 「私の弱みを握ってどうするんですか」 「別に君の弱みを握ろうなんて思ってないよ。もし仮に君に悩み事があっても干渉する気なんて全くないよ。ただ、何か力になれたらいいなってそれだけ」  月宮さんの人柄は信頼している。でも、信用は出来ない。どんなに親しい間柄でも、心を開く相手は選ぶものじゃないだろうか。どんなに気安い関係でも人間である以上は越えられない、越えてほしくない一線がある。コーヒーの水面に映る自分の顔に私はそう言い聞かせる。それでもこのもやもやした気持ちをどうにかしたくて、一口とは言わずこのコーヒーをすべて飲み干してしまいたい気さえした。けれど、私が本当に飲み干したいのはコーヒーじゃなくて、私が引いた線に孤独を感じているどうしようもなく矛盾した私だ。 「このコーヒーを飲むとね、人は夢を見るんだ」 「夢?」 「夢の中に来たら、その人は忘れ物を見つけるまで目覚めない」 「それが悩み事とどう関係してるんですか?」 「君の悩みを解く鍵は、もしかしたら夢の中にあるかもしれない。君が過去に忘れてきたものが今の、未来の君を救ってくれるかもしれない」 「何言ってるんですか?夢に救われるってこと?夢が現実を救えるわけないでしょ。それはただの現実逃避ですよ。それに私は悩み事なんてありません」 「じゃあ、どうしてそんな顔をしているの?」
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