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人夫たちの働きもあって作業は順調に進んだ。
このペースならあと数時間で目途がつくだろう。
「神よ、このお恵みに感謝します」
隊長は両手を組んで瞑目した。
「何ですか、それ?」
隊員のひとりが訊ねた。
「神に感謝の意を伝えたんだ」
「この宝の山のことですか?」
「そうだ。これはきっと神がお与えくださったものだ」
彼は信心深かったが、隊員には理解しかねた。
もし神がいるなら、どうして災害を防いでくれなかったのだろうか、という想いがある。
そもそもあの豪雨さえなければ都市にはそれなりに蓄えがあったから、こんな遠出をする必要もなかった。
「失礼ですが、私には神など――」
いないと思う、とは言えなかった。
彼は見てしまった。
空に浮かぶ巨大な何かを。
「なんだ、あれは!?」
人夫たちも気付いたようで、みな一様に空を見上げた。
丘をはるかに見下ろすほどの巨体が、ゆらりと揺れる。
太陽を背にしているせいで全容はハッキリしない。
まるで空にぽっかりと穴が空いたように、巨大な影が聳え立っていた。
「バ、バケモノだ! この世の終わりだ!」
ぬっと伸び上がったそれが陽光を遮り、辺りは夜のように暗くなった。
すっかり動揺した人夫たちは列を乱して散り散りになった。
「おい、勝手な行動をするな! 持ち場に戻れ!」
怒鳴りつけるリーダーは巨体に足がすくんでいた。
隊長は茫然とそれを見上げていた。
天を蓋ってしまうほどの存在――。
神なのか、それとも悪魔なのか。
自分たちをどうしようというのか。
彼には何ひとつ分からなかった。
ただ、できることは。
恐怖に震える体を抑え、祈ることだ。
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