11人が本棚に入れています
本棚に追加
「ああ、神よ。お救いください! 我らをお守りください……!」
その祈りが通じたのか、ゆらゆらと揺れていた巨躯の動きが止まった。
「………………」
暗闇の中、リーダーが手招きした。
「今のうちだ。今のうちに残りを運び出すんだ。音を立てず、迅速に」
人夫たちはすぐにはそれに従わなかった。
もう充分ではないのか。
今すぐここから逃げるべきではないのか。
もしかしたらあれは山の神で、貪欲な自分たちに罰を与えに現れたのではないか。
いや、奴が動きを止めている間に運び出すべきだ。
彼らはどうするべきか議論した。
「何をぐずぐずしている。国のために働くんだ。早く取りかかれ。さもなければ全員、追放だぞ」
ここで一族のルールが効いてくる。
たとえ身に危険が迫っていても、個人より上層部の意思が尊重される。
リーダーの指示に彼らは渋々、持ち場に戻った。
巨体に怯えながら、作業を再開する。
「そうだ、それでいい。あれが何かは知らんが、どうせ手出しはしてこないだろう。ああ、大丈夫だ」
恐れることはない、とリーダーは自分に言い聞かせた。
危害を加えてくるような存在なら、とっくにそうしているハズだ。
誰かが言ったようにあれが山の神だとしても、不用意に近づかなければ問題ないだろう。
そう思った時だった。
影がわずかに動き、腕のようなものが地面に向かって伸びた。
その先端が割れ、花弁のように四方に広がる。
「あっ!」
彼らは見た。
宝石だ。
銀色に輝く美しい宝石が、影の先端から降ってくる。
滝の如く降り落ちるそれは見る間に堆くなっていき、ほどなくして白銀の山を形成した。
「神だ! あれは……あれは山の神様にちがいない!」
隊長が跪くと、敬虔な何人かがそれに倣う。
「我々を憐み、施しをくださったのだ!」
彼は影を仰瞻した。
このお恵みは受け取らなければかえって災いを招くだろう。
「リーダー、人夫たちに仕事に励むように伝えてくれ。我々が誠実で勤勉であることを神にお見せするんだ。邪な心があってはならない」
彼は思った。
苦労してここにたどり着いたのも。
宝の山を発見できたことも。
全ては神のお導きだ。
「感謝します、神よ――」
彼は深々と頭を下げ続けた。
最初のコメントを投稿しよう!