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マンガかよ! 心の中で、思わずそうツッコんだ。
だって、実際に起こると思う? 教室に駆け込んだら、山縣先輩とぶつかるなんて。
どうして慌てていたのか、今となっては思い出せない。ただ急いで引き戸を引いて、そのまま教室になだれ込んだのは確かだ。そして、前のめりに倒れ込みそうになった先に、まさかの思い人がいた。胸元にヘッドスライディングするなんて、どういうつもりなんだろう、私。これじゃただの迷惑オンナだ。
「ごめんなさい!」
他に言葉が見付からない。真っ直ぐ顔も見られなくて、ただただ頭を下げた。ドキドキしているのは、恥ずかしいからなのか、先輩の纏うシトラスの匂いのせいか、わからない。
赤くなっているのか青くなっているのかもわからない顔のまま、ドアの横でぴったりと固まってしまった。あぁ、もう、この場から消えてなくなりたい!
……と、パニックになっている私の頭の向こう側で、くすり、笑うような息遣いが聞こえた。
「もう少しオレの背が低かったら、キスしちゃってたね」
気を付けて、と付け足して、先輩は教室を出て行った。
ずるいなぁ。私はやっぱりまだ、固まったままだ。
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