ずるい一言

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
マンガかよ! 心の中で、思わずそうツッコんだ。 だって、実際に起こると思う? 教室に駆け込んだら、山縣先輩とぶつかるなんて。 どうして慌てていたのか、今となっては思い出せない。ただ急いで引き戸を引いて、そのまま教室になだれ込んだのは確かだ。そして、前のめりに倒れ込みそうになった先に、まさかの思い人がいた。胸元にヘッドスライディングするなんて、どういうつもりなんだろう、私。これじゃただの迷惑オンナだ。 「ごめんなさい!」 他に言葉が見付からない。真っ直ぐ顔も見られなくて、ただただ頭を下げた。ドキドキしているのは、恥ずかしいからなのか、先輩の纏うシトラスの匂いのせいか、わからない。 赤くなっているのか青くなっているのかもわからない顔のまま、ドアの横でぴったりと固まってしまった。あぁ、もう、この場から消えてなくなりたい! ……と、パニックになっている私の頭の向こう側で、くすり、笑うような息遣いが聞こえた。 「もう少しオレの背が低かったら、キスしちゃってたね」 気を付けて、と付け足して、先輩は教室を出て行った。 ずるいなぁ。私はやっぱりまだ、固まったままだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!