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「石川さん、午前にタニガワの担当者が来るわよ。いいわね~」
社名をきいてかすみは硬直した。康司の勤める会社だ。彼の会社は、かすみの会社と取引がある。
本来、営業一課と取引をしている康司は、営業二課のかすみとは接点がない。
でも、偶然、営業一課の事務の女性が体調を崩して休んだ日に、彼は打ち合わせで会社を訪れたのだ。頼まれた彼女がお茶を出すと、初めて会った康司が気軽に話しかけてきた。
営業二課の事務員と分かると、次の訪問時には、営業一課だけでなくて二課にも顔を出してきた。話しやすい康司にかすみも好意を持った。
そして、雑談が食事になって、二人はいつの間にか交際していた。
同僚は、かすみが青い顔をしているので不思議そうだ。
「体調悪いとか?大丈夫?」
心配されたかすみは首を振った。体調はいい。思いきり泣いたからか、吹っ切れてもいる。でも、会社名を聞くとやっぱり少し心が痛む。
「ううん……体調は大丈夫。元気。
今日、お昼早くしていい?……ごめん、忘れて。いつもどおりで」
頼んだのに、すぐに断った。かすみの様子を見る同僚は不審そうだった。
「なんかあったの?喧嘩だったら気まずいだろうけど……会社だからさ、逆に仲直りしやすくなるかもよ」
嬉しいアドバイスだけれど別れた後だから遅い。かすみは首を振った。
「まだ、秘密にしてくれる?」
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