第一章 雨の日の出会い

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 みんな、乗り越えているから大丈夫という気持ちになる。  定時に仕事を終わらせて、かすみは会社を出た。営業部は忙しいけれど、営業二課の事務員のかすみは定時に帰れる時が多い。  今日は曇っていた。男性と会った雨の日をかすみは思い出した。  (また、雨降るかな)  男性にまた会いたかった。お礼をきちんと言いたかった。それ以上を望んでいるわけではないけれど、もう一度会いたいと思った。  「かすみ」  前から康司が歩いてきた。  名前も呼ばれたくないかすみは、彼から逃れるように人混みを走って空車のタクシーに乗った。鉄道の定期券があるからもったいないけれど、パンプスのかすみは、彼から逃げることが難しい。  でも、どうして、別れ話をしてきた元恋人が、わざわざかすみに会いに来たのか分からない。  (無視されたから?)  それなら、ものすごく迷惑。捨てられたかすみが避けたからといって、どうして何か言われないとならないのか分からない。追っているかもしれないけれど、かすみは振り返らなかった。
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