第一章 雨の日の出会い

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 「どうして……」  相手はかすみにまだ気づいていない。足元から、なんともいえない恐怖が()いあがってきて、その不快感が全身を覆った。  部屋に入れない……でも、遅くなったら(あきら)めるかもしれないとも思った。どうして、捨てたかすみに会いに来るのか全然分からない。怖かった。  「どうされました?」  立ち尽くしているかすみに、誰かが声を掛けてきた。  (この声は……)  振り向くと信じられない思いが心に湧いた。ご都合主義も極まっていると感じた。雨の日に一度だけ会った男性だった。今日も雨……  「あ……貴女は」  男性もかすみを(おぼ)えていてくれた。嬉しさが不快な状況を一瞬、忘れさせた。  でも、立ち止まる人に気づいた康司が、その一人がかすみだと分かったようで歩いてきた。  震えるかすみを見た男性は()いてきた。  「どうしました?」  「別れた……恋人が……」  状況を悟った男性は、かすみの横から動かなかった。康司は不審そうだ。  「誰ですか?」  不穏当な声で言われたのに、男性は穏やかに返した。
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