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「どうして……」
相手はかすみにまだ気づいていない。足元から、なんともいえない恐怖が這いあがってきて、その不快感が全身を覆った。
部屋に入れない……でも、遅くなったら諦めるかもしれないとも思った。どうして、捨てたかすみに会いに来るのか全然分からない。怖かった。
「どうされました?」
立ち尽くしているかすみに、誰かが声を掛けてきた。
(この声は……)
振り向くと信じられない思いが心に湧いた。ご都合主義も極まっていると感じた。雨の日に一度だけ会った男性だった。今日も雨……
「あ……貴女は」
男性もかすみを憶えていてくれた。嬉しさが不快な状況を一瞬、忘れさせた。
でも、立ち止まる人に気づいた康司が、その一人がかすみだと分かったようで歩いてきた。
震えるかすみを見た男性は訊いてきた。
「どうしました?」
「別れた……恋人が……」
状況を悟った男性は、かすみの横から動かなかった。康司は不審そうだ。
「誰ですか?」
不穏当な声で言われたのに、男性は穏やかに返した。
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