第一章 雨の日の出会い

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 「貴方こそ、どなたですか?」  「彼女の……かすみの恋人ですよ」  その言葉に思わずかすみは反論していた。  「違う……違うんです。この人、もう別の相手がいるんです」  誤解されたくない。かすみは必死に言っていた。聞いた男性が微笑んだ。  「彼女はそう言ってますが」  言われた康司は気まずそうに視線を泳がせた。  「付き合ってない。かすみ、少し話せないか?」  かすみは嫌そうに首を振った。その言葉の意味も知りたくない。今さら話すこともない。  「いや。もう話したくない。終わったんだから」  康司に触れられるのも嫌になったと察してくれた男性は、彼女を(うなが)して歩きだした。  「あ、おい、勝手に行くな」  男性は振り返って静かに告げた。  「彼女は過去にしようとしている。それをかき乱す権利は貴方にはないはずです」  「……っ」  言い返せない康司を置いて、二人はマンションへと入っていった。康司が(にら)むように、かすみたちを見ているのは分かったけれど無視した。
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