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「ありがとうございます。私一人ならどうなっていたか……」
「良かったです、役に立てて。貴女はこのマンションに住んでいらっしゃるんですね」
「ええ」
お礼に何かしてほしいのだろうかと思ったけれど、かすみは構わなかった。雨の日に再会できた。そして、康司から守ってくれた。料理くらい、いくらでも作れそうだった。
「僕もここに住んでるんです。今まで気づかなかった」
「え、本当に?」
かすみは驚いた。確かに、部屋数が割とあるマンションだから、全員を知るわけはない。でも、こんな偶然があるなんてと思った。
「ええ、七階です」
もう一度驚いた。最上階だ。下の階の単身者向けとは違って、ファミリー向けのフロアで、二部屋だったはず。
(結婚してるんだ……)
どうして考えなかったのか。彼を勝手に独身と思い込んでいた。こんな素敵で優しそうな男性。結婚していても全然不思議ではない。
「あ……そうなんですか。私、三階です」
言って少し辛くなった。急に男性が遠くなった。
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