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その日から、かすみと男性は親しく言葉を交わすようになった。康司の存在を心配してくれて、毎朝一緒に通勤した。
「おはようございます」
「おはよう。コーヒー持ってきたんだ。飲んでね」
彼の手には、お気に入りというブランドの袋があった。
「でも……いつも、もらってばかりで」
かすみが遠慮すると、直弥は笑いながら言ってきた。
「それなら、今度淹れてほしいかな。休みの日に行っていい?」
彼が部屋に来る。かすみは鼓動が速くなった。でも、返事は一つだった。
「はい、もちろん。いつがいいですか?」
訊かれた直弥は少し考えてから答えてきた。
「今月最後の日曜はどうかな。その頃なら用事も終わってるから」
「お忙しいんですね。大丈夫ですか?」
心配するかすみに直弥は笑った。
「ありがとう。でも、大丈夫。
今日は何時に終わるのかな」
「え……と、多分、定時だと思うんですけど」
「そうなんだ。それだったら迎えに行けるから、夕食、家でどう?」
「いいんですか」
直弥は料理が上手だった。独り暮らしが長いだけだと、かすみが褒めた時に彼は笑った。
「うん。かすみが一緒なら、張りきって作るから、楽しみにしてて」
本当に楽しみだった。
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