第二章 雨の夜の告白

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 ある朝から直弥(なおや)が来なくなった。かすみは心配して七階に行ったけれど、彼は留守のようだった。  (どこに勤めてるか聞いてなかった)  かすみと直弥は恋人ではない。約束して一緒にいるわけではないから、彼が何をしても、どこへ行っても、かすみに教える必要はない。でも、寂しかった。一人置いていかれたような気持ちになった。  沈んだ気持ちのまま出勤して仕事をした。次の日に会えることを願ってベッドへと入った。でも、次の日も、その次の日も直弥には会えなかった。  まるで、幻の人のように……  (本当にいたのかな)  そう思ってしまうほど直弥の存在は淡かった。でも、リビングの絵とコーヒーの粉が入っている袋を見ると、間違いなく彼がいたのだと、かすみにも分かった。  (きっと、急な出張よ)  かすみは、自分に言い聞かせた。  最近は康司(やすし)も諦めたのか、帰る時に待ち伏せしていない。その程度だったのだという失望に近い思いと安堵(あんど)の感情。かすみは両方持ちながら、会社とマンションを往復する毎日だった。  たった一つの約束だった、コーヒーを飲む日曜日……それは明後日になっていた。
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