番外編2~雨に浮かぶ笑顔

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 ***  数日後、朝から雨だった。いつものようにタクシーで出勤した。  そして、この日も定時で終わった。雨で面倒な気分だったので、明日に回せる仕事は明日に回した。  今までは残業してでも一段落させていたけど、そこまで頑張る気分にはならなかった。  雨なので、当然、帰宅もタクシーだ。マンションの少し前で降りる。頻繁(ひんぱん)にタクシーでは目立って仕方ない。  ここは、それほど高所得者が住む地区ではない。僕の入っている七階は二部屋しかないけど、驚くほどの家賃ではない。  僕が持っているマンションよりも安いくらい。きちんと全戸入居なので心配していない。  従姉(いとこ)の夫である慎一(しんいち)さんが霧山不動産なのは本当にありがたい。安心して任せられる。  血の繋がった従姉よりも、その夫と仲がいいっていうのはどうかと思うけど、彼女の弟の勇矢も同じらしいから、あまり気にしていない。  いかにも普通のサラリーマンのように歩いて帰宅する。短い距離だけど、本当の会社員の気分になれる。傘を差してマンションの前に来ると足が止まった。  出入り口に男性がいた。知らない。  このマンションの下層階は戸数が多いので、とても全員(おぼ)えられない。管理会社が知っていれば大丈夫のはず。  住民同士の交流もそれほどでないので、僕には暮らしやすいけど、他の人はどうなんだろう。  防犯を考えれば良くないのかな。でも、このクラスにしてはそれなりのセキュリティなので構わない。  そして、僕の少し前方には後姿の女性。どう見ても、男性がいるから入れない雰囲気だ。  多分、彼女はこのマンションの住民だろう。エコバッグというらしい袋を持っている。買い物をした帰りのようだ。それなら、玄関前の男性は?
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