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考えても仕方ないので、二人を避けて入ろうとした。でも、どうしてか足が進まない。
困っているらしい女性を無視して、何か事件にでもなったら寝覚めが悪いと感じたのだろうか……
最近は物騒だから、自分の住むマンションで事件が起こらないとはとても言えない。万一カメラが入ってきたら、僕の静かな生活はここで終了になる。それは困る。
女性へ静かに声を掛けた。
「どうされました?」
僕の声に驚いたのか、女性が茫然とした表情で振り返った。僕も茫然とした。
「あ……貴女は」
彼女だ。
僕が忘れられなかった女性。
このマンションに住んでいたなんて……
そして、彼女は僕と分かると、嬉しそうな表情を浮かべた。彼女も僕を憶えていたと知ると、すぐにマンションに入って事情を聞きたくなった。
なのに、玄関先にいる男性が、僕たちに気づいて近寄ってきた。彼女は男性を見ると、微かに震えたのが分かった。なので、意識的に穏やかに尋ねた。
「どうしました?」
「別れた……恋人が……」
もしかしたら、夫かそれに近い男性ではと心配だったから、別れた恋人なら、全然問題ない。他人なら、僕と立場は変わらない。
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