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不審者かもしれないとは思ったけれど、無視はできない。
少しずつ近づいていって、かすみは息を飲んだ。傘が手から離れてベンチへと転がっていった。
「かすみ……」
直弥だった。傘も差さずにレインコートも着ていない。濡れて真っ青な顔色になっているのを見て、かすみは慌てて近づいた。
「直弥さん……どうして、こんな……」
彼の身体に触れると、かすみはもう一度息を飲んだ。氷のように冷えきっていた。事情を知りたいけれど、今は身体を温めないと大変なことになる程度は分かった。
かすみは直弥を立たせると、傘を拾ってから彼と一緒に歩きだした。今さら傘を差しても、という気持ちだけれど、これ以上、濡れてほしくなかった。
このまま彼を七階には送れない。かすみは、自分の部屋に直弥を連れていった。
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