第二章 雨の夜の告白

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 どのくらい沈黙が続いたのか、時間の感覚が分からなくなるほど動かなかった直弥は、やっと息をついて話し始めた。  「今度の日曜に約束したのは、今日まで入院の予定だったからなんだ」  「入院……直弥さん、どこか悪いの」  病気と聞いたかすみの表情が強張(こわば)った。直弥が病気……考えもしなかった。会社の用事だと思い込んでいた。  「肝臓が……でも、普通の治療をしても意味がないんだ!」  かすみの心臓が嫌な音を立てた。  寒さを感じなくなる。普通の治療が無意味。恐ろしい予感が身体を震わせた。  「分かったよね。僕は肝臓がんなんだ」  かすみの喉が鳴った。信じられなかった。直弥はかすみよりも数歳年上にしか見えない。そんな若い人が、がん……  「嘘でしょ?お願い、嘘って言って!」  叫ぶようなかすみを、直弥はもう一度抱き締めてきた。  「僕も嘘だって言いたいよ。良くなるって信じてたから、かすみと約束したんだ。なのに……」  かすみの瞳から涙が(あふ)れて止まらなかった。
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