3250人が本棚に入れています
本棚に追加
/330ページ
嘘だと思いたかった。少しずつ近づく距離が嬉しかった。雨の日が楽しみになるくらい好きになっていたのに……
「嘘よ……嘘に決まってる。だって、直弥さん、私を抱き締めてくれてる」
支離滅裂な言葉なのは、かすみが一番分かっていた。でも、言わずにはいられなかった。
「かすみ……かすみだけが僕にはすべてだよ。かすみの身体を抱き締めてると、すごく温かい。生きてるって……」
生きてる……直弥は、自分の生命の期限を告げられたのだろうか……それなら、雨に濡れても動かない理由が分かる。
「直弥さんだって生きてるわ。だって、触れられる」
言いながら、かすみは涙に濡れた顔を上げた。直弥も瞳が潤んでいる。視線が絡むと引き寄せられるように唇が重なった。静かに組み敷かれたかすみは小さく首を振った。
「……かすみ」
かすみは黙って起きあがると、寝室に彼を誘った。きちんとベッドで彼に抱かれたかった。
最初のコメントを投稿しよう!