第二章 雨の夜の告白

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 嘘だと思いたかった。少しずつ近づく距離が嬉しかった。雨の日が楽しみになるくらい好きになっていたのに……  「嘘よ……嘘に決まってる。だって、直弥さん、私を抱き締めてくれてる」  支離滅裂な言葉なのは、かすみが一番分かっていた。でも、言わずにはいられなかった。  「かすみ……かすみだけが僕にはすべてだよ。かすみの身体を抱き締めてると、すごく温かい。生きてるって……」  生きてる……直弥は、自分の生命(いのち)の期限を告げられたのだろうか……それなら、雨に濡れても動かない理由が分かる。  「直弥さんだって生きてるわ。だって、触れられる」  言いながら、かすみは涙に濡れた顔を上げた。直弥も瞳が(うる)んでいる。視線が(から)むと引き寄せられるように唇が重なった。静かに組み敷かれたかすみは小さく首を振った。  「……かすみ」  かすみは黙って起きあがると、寝室に彼を誘った。きちんとベッドで彼に抱かれたかった。
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