第三章 雨傘に隠されていた素顔

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 「それなら、カタログ持ってくる。欲しい物あったら言って。社員価格で買えるから」  節約を考えたのに、直弥は少し複雑な表情だ。かすみは首を(かし)げた。そんな彼女に気づいた直弥は違うことを(たず)ねてきた。  「霧山(きりやま)商事って知ってる?」  世界的大企業だ。商学部出身のかすみだけれど、自分には無関係な企業と思っていた。もちろん名前は知っている。ためらいながら頷いた。  直弥は、その有名企業と同じ名字の男性……不安そうに彼を見ると、静かに頷いてきた。  「社名は一族の名字と同じ。だから社長も、もちろん霧山。僕の父親なんだ」  「え……」  直弥の言葉を聞いたかすみは、思わず動揺した声で返していた。  「僕は三人兄弟の末っ子。だから、今はまだ商事には入ってない。兄さんたちは役員してるけどね。  僕は霧山建設に勤めてるんだ。兄さんたちは違う会社の役員もしてるけど、僕は建設に専念していいって。将来的には商事の役員にはなるかもしれないけど、常務とか専務にはならない予定だから気楽なんだ。  後継ぎは、一番上の兄さんって決まってるしね」
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