第三章 雨傘に隠されていた素顔

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 兄二人が、霧山商事の経営陣に入っている。  珍しい名字とは思っていたけれど、まったくいないわけでもない。かすみは、彼が一族とは想像もしていなかった。  このマンションは、それほどランクが高くない。住んでいる人が、そこまでの階級の人とは考えもできない。  それなら、どうして直弥はここに住んでいるのだろう……  かすみは何から聞いていいのか分からなかった。  霧山グループ  商事を中核に置く総合企業体だ。昔は華族だったと聞いている。  グループ企業に入るには、勤めている誰かの推薦が必要だ。紹介がなければ、どれほど優秀でもエントリーシートすら受けてもらえない。かすみは最初から対象外だ。望んだことすらなかった。  なのに、目の前にはグループの中枢(ちゅうすう)の人が……  どうしてか、かすみは直弥が嘘をついていないと確信できた。  でも、そうだとすると、直弥は霧山本家の人間だと理解できる。彼の実家は、一族で一番高い立場だと。彼は、世界的企業のトップに君臨する家の一員(ひと)……  かすみは普通のサラリーマンの娘。弟がいるけれど、後継ぎという家系でもない。直弥の存在が急に遠くなった。
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