第三章 雨傘に隠されていた素顔

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 「その頃、体調を崩して検査入院が決まってたから、話すのは退院してからって思ってたんだ。  一族の人間っていうのは変えられないけど、商事の経営には絶対に関わらないって言えば、びっくりはしても、少しは違うかなってね」  直弥の言葉に、かすみはあいまいに頷いた。  「分からない……でも、直弥さんと離れられない。それだったら受け入れないと……」  ためらいながらの言葉に、直弥は少し申し訳なさそうだったけれど、安心もしたのが分かる。  「ありがとう。  進行だって宣告されて、薬の治療を提案されたんだ。受けないつもりだったけど治療するよ。可能性があるなら(あきら)めないで頑張らないとね」  治療をする……回復の可能性を聞いたかすみは表情を明るくした。  「治療できるんだ。それじゃ、半年なんかじゃなくて、もっと長生きできるのね……」  嬉しそうなかすみに、直弥も微笑んで抱き締めてきた。  「このままなら半年って言われたんだ。でも、かすみが横にいてくれるなら、大変な治療でも耐えられそうだからね」  自分が彼の治療の力になる。聞いたかすみは本当に嬉しくなった。
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