第三章 雨傘に隠されていた素顔

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 ***  かすみは次の日から、普通に会社へと通勤を始めた。  でも、住所を変更したことを連絡しないとならない。  会社と郵便局、そして役所には部屋番号の変更の手続きをした。それ以外は何も変わらなかった。なので、かすみが引っ越したと知るのは一部の人間だけだった。  かすみは最低限の相手以外、誰にも言わなかった。  男性と同棲している。その程度なら隠すほどでもない。でも、直弥は霧山一族の男性。そして闘病中。二人の静かな時間を誰にも邪魔されたくなかった。  幸い、恋人に捨てられてからそれほど()っていないので、誰も無理な誘いをしてこなかった。別れてすぐは合コンの誘いも少しあったけれど、今は……と言うと、それ以上無理()いはしてこなかった。  その時は、本当に誰とも付き合う気はなかった。直弥の面影が心で揺れても、交際に結びついていたわけではない。  でも、今、二人は同じベッドで眠り、一緒に生活をしている。  直弥は、通院日以外は霧山商事で働いていた。
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