第三章 雨傘に隠されていた素顔

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 がんが発覚してから、無理のない勤務が可能なように、建設から商事へ転籍したと言った。  でも、親からの援助で治療を受けたくないから、可能な程度の勤務を希望したと聞いた時、かすみは嬉しかった。  実家の財産を、当たり前のように使わない彼に安心していた。  土曜日からの同居だったけれど、金曜日の夜しか直弥はかすみを抱いていない。避妊の用意があると言っても、彼は決して頷かなかった。  直弥はかすみを妊娠させたくないと思っている。  彼にとって、あの事実はなかったことにしたいのだろう。でも、かすみは抱かれないから、余計に妊娠していることを願った。  雨の一夜が実ってほしいと祈った。
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