第三章 雨傘に隠されていた素顔

13/24
前へ
/330ページ
次へ
 ***  二人の生活が十日ほど()った頃、かすみの勤める本社に、関西支社から女性が出張してきた。  「花野(かの)、どうしたの?」  呼ばれた花野は、かすみに笑いかけた。  「どうしたの、じゃないわ。出張よ。部課長会議あるって聞いてない?」  「聞いてる。でも、本社(こっち)だけかと思ってた」  かすみの言葉に花野は苦笑した。  「正しいんだけど、支社からも何人か呼ばれてるのよ。私、こっちに来年から復帰だから、挨拶代わりってこともあって」  「え、花野、やっと帰ってくるの?」  かすみと花野は同期入社だ。  それなりの大学の商学部を出て、一般職採用だったかすみに対して、一流大学の経済学部出身の花野は、女性初の総合職として華々しく入社した。順調に実績を重ねた彼女が、三年前に栄転で関西支社へと赴任してからは、滅多に会えなくなっていた。  実家が東京にあって、役員も望める女性なので、将来本社に復帰するのは間違いない。でも、幹部候補として他の支社にも転勤の予定だったので、友人であるかすみには嬉しい知らせだ。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3250人が本棚に入れています
本棚に追加