第一章 雨の日の出会い

4/21

3250人が本棚に入れています
本棚に追加
/330ページ
 ***    マンションに帰ったかすみは、まず、色鉛筆を一本ずつ丁寧に()いてからテーブルに乗せていった。  色鉛筆は六角形ではないので転がってしまう。百円ショップで購入したトレーを出してきて入れた。最後に、淡い青の色鉛筆を、今までよりもさらに丁寧に拭いて、静かにトレーに置いた。  男性の面影が心に浮かぶ。  雨がやんで、雲間から太陽が差す瞬間の光りのように、かすみには見えた。恥ずかしい表現のはずなのに、なぜか、彼にとても合っているように思えた。  色鉛筆を綺麗にしたので、自分が風邪をひかないように、かすみは、少し熱めの温度でシャワーを浴びた。出て髪を乾かしてからホットレモネードを作った。  レモンが好きなので、かすみは、いつもレモンの蜂蜜漬けを冷蔵庫に常備している。夏は氷を入れてアイスで、冬はお湯で割るホットレモネードにする。  今は秋なので、どちらでも大丈夫だけれど、雨で濡れた身体には、ホットがいいだろうと思った。軽く息を吹きかけながら、かすみは少しずつ温かいレモンと蜂蜜を味わった。  普段はそれほど甘味を必要としないけれど、今日は砂糖を入れたかった。蜂蜜だけでは足りない気分だった。  砂糖を混ぜて、改めて飲み直す。甘さが心地良く思えた。  (あの人みたい……)  温かくて、優しい甘味……  ほんの二言、三言、会話を交わしただけの男性。でも、かすみの心になぜか残っている面影……
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3250人が本棚に入れています
本棚に追加