第三章 雨傘に隠されていた素顔

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 「うん。無理言って、本社に戻るの認めてもらったの」  「無理?」  普通の要求程度で本社復帰が認められるとは思えないので、かすみは首を(かし)げた。  「実は父親が身体悪くして……それほど心配するほどでもないんだけどね。でも、母親が不安がっちゃって。それで、東京に戻りたいって部長に頼み込んだの。なんとか通って母親も安心してる」  花野は一人娘だ。  「そっか……でも、こっちに戻れて良かったね。で、おじさん、どこが悪いの?」  かすみは、花野の本社復帰が嬉しくて簡単に()いていた。  「肝臓が悪くて……放っとくとがんになるから気をつけろって。まったく不摂生なのよね。これからは食事制限あるらしくて母親も大変なのよ。それがあって、近くに戻りたいってね」  説明を聞いたかすみは息を飲んだ。確認しなければ良かったと後悔した。  顔色の悪くなったかすみを花野が不安そうに見てきた。  「どうしたの、かすみ」  声を掛けられて、ハッとしたかすみは作った笑顔で向き直った。
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