第三章 雨傘に隠されていた素顔

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 ***  「かすみ、夕食一緒にしよ」  「花野……私……」  断りそうなかすみに、花野は念を押すように続けた。  「久しぶりの友達を放って、帰るとかないよね」  「分かった……いつもの店でしょ?」  渋々でもかすみが受けたので、花野は勝気に微笑みながら頷いて営業部を出ていった。耳元のダイヤモンドのピアスが輝いて、かすみの目に(うつ)った。  バリキャリで有名な花野を知る女性社員たちは、憧れの視線を向けている。有名歌劇団の男役のような長身と美貌を持つ花野は、彼女たちに絶大な人気を誇っている。  来年には本社へ復帰すると知れば、喜ぶ女性は多いだろう。  もちろん、かすみも嬉しい。  でも、今は直弥との時間を増やしたいと思っているかすみには、本当は断りたい誘いだ。じきに東京に帰ってくるなら、ランチでいくらでも埋め合わせができる。
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