第三章 雨傘に隠されていた素顔

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 (仕方ないよね、今日だけだから……)  沈む気持ちで、かすみは直弥へ休憩時間に用件を送った。直弥からは、ゆっくり友達と楽しんできてという返事が届いて、少し傷ついた気持ちになった。  優しい直弥は、きっとかすみが、自分の時間をすべて彼のために(つい)やすのが嫌なのだろう。分かっていても、かすみが彼といたかった。  治療で良くなる。きっと助かる。  そう信じているけれど、それは、かすみの根拠のない願いだ。実際、直弥の状態はまったく楽観できないのは理解していた。  それでも、(かす)かな望みにかすみはすがりたかった。  奇跡を紹介する番組で時々見る、がんの末期と宣告されながら、強い気持ちや家族の愛で助かった人の話。直弥に、その奇跡が降りてほしかった。  そう願っているけれど、時間を無駄にはできない。  かすみは、すべてを犠牲にしているとは思わないけれど、直弥の考えが違うのも分かる。  かすみが友人と会うと聞いて、きっと直弥は安心したはずだ。かすみが、自分の時間を楽しんでいると。彼女は、今はまったく望んでいないのに……
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