第一章 雨の日の出会い

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 彼女は、一人で首を振った。  数日前の(にが)い会話が(よみがえ)る。その時は恨めしいくらい晴れていた。夕暮れが近づいているのに、空はまだ青くて、夏の名残の暑さがあった。  〝俺、守ってやりたいって思ったんだ。かすみはしっかりしてるからさ〟  言いながら半分腰が浮いていた、恋人だった男に何を言えばいいのだろう。  しっかりしてる……相手も働いている。負担になったら駄目だというくらい誰にでも分かると、かすみは思っていたけれど、康司(やすし)の後輩という女は違ったのだと知った。  残業にも関わらず甘えてくる……そんな女が好みとは、交際していて、かすみは全然分からなかった。  相手の立場を考えて邪魔にならないようにする。そんな彼女の配慮は、甘えてきて可愛いと康司が評価した女の前では、紙ほどの重みもなかった……  かすみは、康司の言いわけを途中まで聞くと黙って立ちあがり、そのまま店を出た。まったく飲まなかったコーヒーの支払いを押しつけたのは、最後だからの嫌がらせだ。  もし、泣いてすがったら違ったのだろうかと思ったのは、バスに乗ってからだ。  でも、そんな態度をかすみは取れなかった。結局、恋人だった男の言うとおり、しっかりしている性格がそんな態度を取らせなかったのかもしれない。  失恋したのに、気持ちいいほど晴れている天気が、かすみには(つら)かった。心が乾いていくのが分かった。
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