第三章 雨傘に隠されていた素顔

24/24
3241人が本棚に入れています
本棚に追加
/330ページ
 今まで直弥は、かすみに関係する人に会いたいとは言わなかった。家族にも……自分の寿命を考えているのが分かる。でも、花野には会いたいと初めて言ってくれた。嬉しい気持ちがかすみの声を弾ませた。  「うん、花野もきっと会いたいって言うよ。楽しみだな……でも、花野を好きになったら、ちょっと困るかな」  少し情けない口調になったかすみに、直弥は笑ったまま軽くキスしてきた。  「直弥さん……」  かすみは茫然(ぼうぜん)と名前を呼んだ。一緒に暮らして十日。初めてのキスだった。  「これ以上は駄目だけど、やっぱり、かすみにキスしたい。いいかい?」  「そんなこと()かないで。もっと先まで行ってもいいのに……」  直弥は首を振ったけれどキスは続けた。かすみは直弥に抱きついた。少しでも触れ合っていたい。  一緒のベッドで寝ているけれど、直弥は決して触れてこない。ずっと寂しかった。  「抱いてくれないなら我慢する。でも、こうやって近くにいたい」  「うん、僕もかすみに触れたいよ」  その夜から二人は寄り添って眠った。軽いキスだけでも、かすみは幸せだった。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!